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精神障害者手帳から「性別欄」が消える・・・「性同一性障害者」にどんな意味がある?
2013年09月16日 13時41分

厚労省はこのほど、「精神障害者保健福祉手帳」から「性別欄」を削除する方針を固めた。心の性別が戸籍と異なる性同一性障害者(GID)への配慮で、来年にも様式を変更するという。

この福祉手帳は、統合失調症などの精神疾患で、生活に支障がある人を支援するためのもの。現在、税の減免や公共交通機関の割引、自治体・民間業者の各種優遇などが受けられるが、これらのサービスは性別と関係がないことから、厚労省は手帳から性別欄を削除しても支障は生じないと判断したという。

性別欄削除の恩恵を直接受ける人の数は明らかではないが、性同一性障害者の場合、身分証明書を提示する際に性別表記を見られることで、苦痛を感じたり、トラブルに巻き込まれたりするケースも少なくないようだ。2004年に戸籍の性別変更をしたタレントのカルーセル麻紀さんは、見た目とパスポートの記載が違うため「海外旅行のたびに辛い思いをしていた」と、記者会見で告白している。

言われてみれば、サービスを受ける際にあえて性別を告げる必要がないケースは、他にもあるように思われる。今回の「性別欄削除」は、性同一性障害者にとってどんな価値を持つと言えるのだろうか。セクシャルマイノリティ支援などに取り組む山下敏雅弁護士に話を聞いた。

●戸籍の性別欄を変更するためには「手術」を受ける必要がある

「男性か女性かは生まれたときに客観的に決まり、一生変わらない。だから個人の特定や証明に役立つ……。これまで公文書や公的証明書に性別が書かれていたのは、そう漠然と考えられてきたためだと思います。

しかし、時代は変化しています。10年前には『性同一性障害者特例法』が成立し、性同一性障害者が、戸籍上の性別を変更できるようになりました」

戸籍上の性別が変更できるなら、そうすればいいだけの話なのではないだろうか?

「ところが、特例法に基づいて性別変更を認めてもらうためには、『性別適合手術』(性転換手術)を受ける必要があるのです。

手術の身体的・経済的負担は、相当なものです。また、性同一性障害者といっても、その全員が手術を受ける必要があるというわけではありません」

確かに、性別適合手術は「ちょっと受けてきます」というわけにはいかないだろう。ということは、本当は戸籍を変更したくても、様々な事情でできないという人がかなりいるのではないか。

「そうですね。公文書や公的証明書の性別の記載は、戸籍上の性別の取り扱いを変更していない、あるいはできない人たちにとって、非常に苦痛です。

本人たちは『本来の性別』として暮らしたいのに、公文書や公的証明書には『異なる性別(戸籍上の性別)』が書かれているわけです。それが日常的に他者の目に触れるとしたら、どうでしょうか?」

女性の格好をした人が、男性と記載された書類を出したら(あるいは逆でも)、怪訝な目を向けられるだろう。

「公的な書面は、行政手続や公的サービスを利用する場面はもちろんのこと、契約や民間サービスなど社会生活の様々な場面でも身分証明書として提示を求められますから、生活・人生の多く支障が生じることになってしまうのです」

●性別は「本人確認」には関係ない

そのたびに「説明」を余儀なくされるとなれば、「いい加減にしてくれ」と言いたくなる気持ちはわかる。一方で性別欄を消した場合、問題が起きるケースはないのだろうか?

「手元に運転免許証があれば、確認してみてください。性別の記載はありません。個人の特定や証明のために『性別』は必要ないのです。現在、多くの地方自治体で印鑑証明書のように性別が関係ない書類について、記載をなくしていく動きが広がっています。

今回の精神障害者保健福祉手帳は、多くの手続き・サービスに関連するものですので、当事者に配慮した取り組みと評価できます」

となると、問題はいくつかの「性別に関係するケース」をどう扱うかになりそうだ。

「年金など男女によって、法律上の取り扱いが異なるものや、医療など身体的な性差を把握しておくべきものはありますが、そのような場面でも、工夫が進んでいます。たとえば、昨年、厚生労働省は、国民健康保険証で性別を表面に記載しない方法を認めました。

また、公文書などの記載のあり方だけではなく、たとえば、文部科学省が性同一性障害の児童生徒に配慮するよう通知を出すなどの取り組みも進んでいます」

時代は大きく変わりつつあるようだ。山下弁護士は「性のあり方は多様で、一人ひとりの存在、生活、人生そのものとも深く結びついている。私たちはそういった理解を深めていく必要があると思います」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)

厚労省はこのほど、「精神障害者保健福祉手帳」から「性別欄」を削除する方針を固めた。心の性別が戸籍と異なる性同一性障害者(GID)への配慮で、来年にも様式を変更するという。

この福祉手帳は、統合失調症などの精神疾患で、生活に支障がある人を支援するためのもの。現在、税の減免や公共交通機関の割引、自治体・民間業者の各種優遇などが受けられるが、これらのサービスは性別と関係がないことから、厚労省は手帳から性別欄を削除しても支障は生じないと判断したという。

性別欄削除の恩恵を直接受ける人の数は明らかではないが、性同一性障害者の場合、身分証明書を提示する際に性別表記を見られることで、苦痛を感じたり、トラブルに巻き込まれたりするケースも少なくないようだ。2004年に戸籍の性別変更をしたタレントのカルーセル麻紀さんは、見た目とパスポートの記載が違うため「海外旅行のたびに辛い思いをしていた」と、記者会見で告白している。

言われてみれば、サービスを受ける際にあえて性別を告げる必要がないケースは、他にもあるように思われる。今回の「性別欄削除」は、性同一性障害者にとってどんな価値を持つと言えるのだろうか。セクシャルマイノリティ支援などに取り組む山下敏雅弁護士に話を聞いた。

●戸籍の性別欄を変更するためには「手術」を受ける必要がある

「男性か女性かは生まれたときに客観的に決まり、一生変わらない。だから個人の特定や証明に役立つ……。これまで公文書や公的証明書に性別が書かれていたのは、そう漠然と考えられてきたためだと思います。

しかし、時代は変化しています。10年前には『性同一性障害者特例法』が成立し、性同一性障害者が、戸籍上の性別を変更できるようになりました」

戸籍上の性別が変更できるなら、そうすればいいだけの話なのではないだろうか?

「ところが、特例法に基づいて性別変更を認めてもらうためには、『性別適合手術』(性転換手術)を受ける必要があるのです。

手術の身体的・経済的負担は、相当なものです。また、性同一性障害者といっても、その全員が手術を受ける必要があるというわけではありません」

確かに、性別適合手術は「ちょっと受けてきます」というわけにはいかないだろう。ということは、本当は戸籍を変更したくても、様々な事情でできないという人がかなりいるのではないか。

「そうですね。公文書や公的証明書の性別の記載は、戸籍上の性別の取り扱いを変更していない、あるいはできない人たちにとって、非常に苦痛です。

本人たちは『本来の性別』として暮らしたいのに、公文書や公的証明書には『異なる性別(戸籍上の性別)』が書かれているわけです。それが日常的に他者の目に触れるとしたら、どうでしょうか?」

女性の格好をした人が、男性と記載された書類を出したら(あるいは逆でも)、怪訝な目を向けられるだろう。

「公的な書面は、行政手続や公的サービスを利用する場面はもちろんのこと、契約や民間サービスなど社会生活の様々な場面でも身分証明書として提示を求められますから、生活・人生の多く支障が生じることになってしまうのです」

●性別は「本人確認」には関係ない

そのたびに「説明」を余儀なくされるとなれば、「いい加減にしてくれ」と言いたくなる気持ちはわかる。一方で性別欄を消した場合、問題が起きるケースはないのだろうか?

「手元に運転免許証があれば、確認してみてください。性別の記載はありません。個人の特定や証明のために『性別』は必要ないのです。現在、多くの地方自治体で印鑑証明書のように性別が関係ない書類について、記載をなくしていく動きが広がっています。

今回の精神障害者保健福祉手帳は、多くの手続き・サービスに関連するものですので、当事者に配慮した取り組みと評価できます」

となると、問題はいくつかの「性別に関係するケース」をどう扱うかになりそうだ。

「年金など男女によって、法律上の取り扱いが異なるものや、医療など身体的な性差を把握しておくべきものはありますが、そのような場面でも、工夫が進んでいます。たとえば、昨年、厚生労働省は、国民健康保険証で性別を表面に記載しない方法を認めました。

また、公文書などの記載のあり方だけではなく、たとえば、文部科学省が性同一性障害の児童生徒に配慮するよう通知を出すなどの取り組みも進んでいます」

時代は大きく変わりつつあるようだ。山下弁護士は「性のあり方は多様で、一人ひとりの存在、生活、人生そのものとも深く結びついている。私たちはそういった理解を深めていく必要があると思います」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)

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